2022年9月28日水曜日

私はあなたのために、信仰が無くならないように祈った。だから、あなたは立ち直ったら、兄弟たちを力づけてやりなさい。(ルカ22:32)

 秘められた優しさ


映画『グラン・トリノ』から


私はあなたのために、信仰が無くならないように祈った。だから、あなたは立ち直ったら、兄弟たちを力づけてやりなさい。(ルカ22:32)

 名優クリント・イーストウッドの監督、主演作です。随分前に、信徒の方に紹介していただきました。とにかく、クリント・イーストウッドがカッコいい!老境に差し掛かった名優の魅力を感じました。
 題名にある「グラン・トリノ」とは、車の名前です。主人公の愛車で、彼の分身のような存在です。車体も排気量も大きく、力強く走るアメリカ製の自動車のように、主人公も、力強く、一人で生きています。ただその力強さは、頑固や偏屈さとして現れ、乱暴な言葉遣いや暴力的な行動、他者を排斥する態度となって表れてしまいます。家族や周辺の人々とも、トラブル続きです。けれども、隣家の人々との交わりの中で、徐々に、彼の秘められた優しさや思いやりが現れてきます。これも、件の車が、米国製車にしては少々小ぶりで、力強さの中にも繊細な姿をしているのと似ています。
 彼の秘められた優しさを導き出したのは、人々との交わりと、そしてそれに加えて、愛する人のお祈りでした。映画は、主人公の妻のお葬式の場面から始まります。葬儀の後、教会の司祭が主人公を尋ねます。主人公は鬱陶しく思いますが、司祭は引き下がりません。それは、主人公の妻から「自分が死んだら、夫をよろしくお願いします」と頼まれていたからです。主人公は、愛する妻から、ずっと祈られていたのでした。その祈りが、少しずつ、主人公の心を信仰へと導いていったのです。
 私たちは一人一人みんな、心の中に優しさを秘めています。表面上はそのようには見えない人でも、秘められた優しさが備わっているのです。その優しさを導き出すのは、温かい交わりと、その人のことを大切に思いながら捧げられる祈りであると思います
 神様の優しさも、秘められたものなのかもしれません。旧約聖書を読んでいると、時に暴力的にも感じられる神様の姿に出会います。そのすさまじい力強さに、私たちは驚き、圧倒されます。けれども、新約聖書まで読み進めると、神様のこの上なく優しい姿に出会っていきます。それはイエス様を通して表されたもので、自分の命を捨ててまで人を愛する優しさです。十字架を見つめて祈る時、私たちは自分に秘められた優しさに出会うのです。