何て素敵にディストピア
映画『JUNK HEAD』から
霊は私を引き上げ、内庭に導いた。見よ、主の栄光が神殿を満たしていた。(エゼキエル 43:5)
「たった一人で七年かけて作ったアニメ映画」と聞いて出かけました。見てみると、製作秘話よりも、映画そのものに引き込まれました。遠い未来、人類は永遠に近い寿命を手に入れ、その分、生殖能力を失っていました。ある時、人類は、悪性のウイルスにより滅亡の危に立たされました。人々は、遠い昔に決別した「地底人」が今も子孫を増やしているという情報を聞き、深い地底に調査員を派遣することにしました。しかしそこは恐ろしいモンスターが闊歩する世界で…。 ディストピアものと言われるSFです。これはユートピア「理想郷」の反対の「暗黒郷」、絶望的な世界です。このような、絶望的な世界を描いた作品は数多く作られています。人々は、崩壊した世界の姿を見て、日常生活での苦しみや不満を晴らしているのだと思います。けれども絶望的なだけではありません。その中に、希望や喜びがあるからこそ、見る人に元気が出るのです。今作でも主人公は、地底世界で命からがらの冒険をしながら、「今まであまり感じなかったけど、生きているという感じがする」と語っています。絶望的な世界を描くことで、日頃見失いそうになっている夢や希望、命の尊さや交わりの温かさ、そして愛が、より鮮やかに輝きだすのでしょう。
聖書にも、絶望的な世界を描いている箇所は多くあります。ヨハネの黙示録やエゼキエル書、ダニエル書には、悪魔や怪物、世界や秩序の崩壊、信仰者の迫害や殉教が、多くの頁を用いて記されています。これらの書物は、教会や信仰者が、厳しい迫害を受けているときに書かれ、そして現在まで、信仰者が苦しむ時に勇気と励ましを与えてきました。これらの書物は、一見、奇異な印象を与える「けったいな」ものです。けれどもその中には、希望と救いのメッセージが光り輝いています。絶望的な文章の奥に、神様の救いが秘められているのです。私たちの世界も、様々な課題があり、絶望的に感じる時もあります。けれどもこの世界の奥に、神様は救いを備えてくださっています。絶望的な世界の向こうへと導く鍵は、愛です。